2014.12.9

運動選手に教えるウェイトリフティングのキャッチに関して

2014年NSCAジャパンカンファレンスのゲストスピーカーは、米国ウェイトリフティング協会の殿堂入りコーチであるボブ・タカノ氏でした。縁があって前々から彼と仲良くさせていただいていたという経緯もあって、カンファレンスに先立って行われた彼の特別講習会の通訳を僭越ながらも務めさせていただきました。その中で、フルクリーンにしてもフルスナッチにしても、それらのパワーキャッチに比べるとおおよそ20%程度重い重りを扱えるという事を述べていました。
今回のブログはそれに関してです。

ウェイトリフティングのキャッチで、フルのポジションまで行くために必要なのは、臀部とハムストリングの筋力と柔軟性です。それらの部位に必要なだけの筋力と柔軟性が無ければ、ウェイトリフティングのような早い動きの中で、スパッっとバーの下にしゃがみ込んで入ることはできません。また、バーの下に入ってしゃがみこめても、キャッチを成功させるには、バーの重りに負けずに胸を立てた状態を作り出せるだけの腰や肩周りの筋力も必要です。

ただですね、実はそれだけではフルキャッチを作り出すのには足りません。

足が、特に膝から臀部までの部分が、ある一定レベル短くなければ、そのポジションに入ることは難しいのです。

ウェイトリフティングの動きは非常に速いもので、しかも動かすのは相当な重量です。ですから、人間の体はできるだけ安定した体勢で、その重りの重量と自分が作り出した勢いと地球の引力を受け止めようとします。しかもそれらを受け止める体勢を作るために与えられた時間は、ほんの零コンマ何秒かです。ですから、先述した負荷を受け止めるに十分な体勢は、それだけの短い時間で作り出せる最も安定したポジションである必要があります。そうなるとですね、人間の体は、無意識の中で、自分が最も取りやすい最も安定したポジションを取ろうとします。そんな時、もしその人の膝からケツまでの距離が長かったとしたら、それらを折り曲げるためにかかる時間も距離も長めになりますよね。ですからそういう人たちは、わざわざ膝を曲げて自分の体を下に落とすことよりも、足を開くことで下方向にできるだけ体を落としてバーの下に入ろうとするのです。つまり、パワーキャッチになるのです。

そして私も、フルクリーンやフルスナッチは、バーの下に入ろうとして意識的にしゃがんだのではありません。自分の体がいつの間にやら勝手にそう動いた結果が、フルクリーンだったりフルスナッチだったんです。つまり、自分の日常的にまともなウェイトトレーニングを取り入れ始め、着実に腰もケツもハムも強くなって柔軟性がついた結果が、フルクリーンとフルスナッチだったんです。
しかしながら、僕よりも一生懸命ウェイトトレーニングに取り組んでいるのに、どうしてもフルのキャッチポジションに入ることができないで悔しがってまでいる選手たちも見ます。彼らこそが、足が長い選手たちです。

確かに、彼らに徹底したキャッチポジションの指導をすれば、いつの日にかフルのキャッチができるようになるでしょう。しかしながら、大学生である彼らは僕の手元に長くたって3年半しかいないわけですし、彼らの大学生運動選手としての時間の中で、ウェイトトレーニングのためにとれる時間も限られています。であるならば、ボトムでキャッチする練習のために負荷を軽くしてクリーンを行うよりは、パワーポジションで扱えるマックスまたはサブマックスの重りを与えてトレーニングをさせたほうが効率はいいのです。

ですからですね、たとえフルキャッチの方がパワーキャッチよりも20%程度重い重量を扱えるという事実があったとしても、彼らがサブマックスに近い重りを扱う時はどうしてもパワーキャッチになってしまうのであるならば、存分にパワーキャッチをさせてあげればいいのです。そのほうが、彼らが無理やり行うフルキャッチで扱える重りよりも確実に重い重りを扱うことになります。

以上、どんなに偉くて知識のある人が言っていることであろうと、わざわざ全部取り入れる必要はないんだよ・・・という例の一つとして、今回のブログ記事とします。

p.s.
クリーンで扱える重量はスナッチで扱える重量の20%増という事も講義内でボブは言っていました。講義内では触れませんでしたが、これに関しても”もしあなたのスナッチのテクニックがまともであれば”という大前提があります。逆に言えば、もしあなたのスナッチがクリーンの20%に到底及ばないのであるならば、テクニックに問題があり、その結果、または根本的に、上半身も弱い。だからスナッチの重量が伸びない、という事です。

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