2015.4.12
指導者の鏡は指導対象者
運動指導をするならば、まず指導者の頭の中に理想のフォームが確固たる理由とともに存在するべきです。そして指導時は、指導対象者にその理想のフォームで運動を実践させるために、フォームを伝えるためのキーとなるポイントを必ず抑えながら、そしてそのポイントを指導対象者が理解していることを確認しながら、徐々にそのフォームを指導対象者の体に埋め込んでいかなければいけません。そうすれば、どんな重量の重りを持とうが、基礎段階で教え込んだそのフォームを使ってその運動を行ってくれるので、ウェイトトレーニング中のそしてスポーツ競技中の傷害の発生率を最小限に抑えることができます。
では、それがうまくいかない、どれだけやっても指導対象者のフォームがよくならない、という状況に陥った場合、下のような要因が考えらえるので、自分がどこに当てはまるのか考えつつ、改善に向けて努力してみてください。
1.自分自身が正しいフォームを習得できていない。だから正しいデモンストレーションができず、指導対象者が正しいイメージでそのフォームを理解できていない。結果、正しいフォームを体得させることができない。
2.自分自身がフォームの背景にある指導ポイントを理解できていない。だから、どこにどう気を配れば正しいフォームでその運動が実施できるかわかっていない。結果、指導時に正しいキューを指導対象者に伝えることができない。
3.動きを見て、全体的な把握をする指導能力がない。つまり、正しいフォームかどうかを理解するために必要な”動きをみる専門家としての目”を持っていない。結果、一部は修正できるけれど全体的な修正に至らず、総合的には正しいフォームを作り出せない。
4.3.と同じ要素が入りますが、体に正しいフォームが埋め込まれていない段階で負荷を上げてしまい、結果、正しいフォームよりも、その重りを挙げるためのフォームでその運動を行うことが多くなり、理想的ではないフォームが体に埋め込まれてしまった。
5.単純に、指導対象者の筋力や柔軟性が、その運動をするためのレベルに達していない。
自分自身に確実なフォームで行うデモンストレーション能力がなければ、他者にその動きを説明するときの説得力に欠けます。そして先述したように、指導対象者に正しいフォームのイメージを与えることもできません。だからこその、日常的な正しいフォームを用いた運動習慣が指導者には必要なのです。ただ、指導者はそれでは足りません。そこで足りてしまっては、正しいウェイトトレーニングを経験したことのある運動選手のほとんどが優秀な運動指導の専門家になってしまいます。我々が運動指導の専門家でいられるかどうかは、その運動動作の背景にある理由とそれを他者に伝えるときのわかりやすい説明方法を理解しているか否かによります。
ここからは私見ですが、運動を他人に伝えるときに必要なのは、どれだけ人の立場になってその運動のすべてを考慮できるかによります。つまり、自分がその運動を行う中で経験してきたことだけではなく、その運動動作を行おうと試みる全ての人の体に起こりうる間違いとその間違いの原因の理解を深めることが、どれだけわかりやすくその動作を他者に伝えられるかにつながると思っています。やはりこれにはできるだけ多くの体を見て、常に”WHY”を頭に置いて運動動作と向き合う必要があります。
運動指導者はジコチューではなれないということですね・・・
冗談でも何でもなく、エゴが先行した指導は迷惑でしかありません。運動プログラムのプログレッションもエゴが先行すれば、できもしない運動を取り入れて「なんでこの人、この運動にこんなに難しそうに取り組んでるんだろう…」って悩むことになります。それも全部指導者のせいです。その運動ができない体にその運動動作を取り入れても、できるわけがありません。運動指導の専門家であるならば、その運動動作ができる体を作ってから、その運動をプログラムに取り入れればいいのです。
例えば、僕のプログラムの場合、自体重でのリバースランジができなければ重りを肩に担いだリバースランジはできません。ある程度の重りを肩に担いでリバースランジができなければ、自体重でのスクワットを行うことはできません。自体重でのスクワットができなければフロントスクワットはできません。たた、正しいフォームでフロントスクワットを行うことができれば、バックスクワットを教えるのは非常に簡単です。また、リバースランジができず、RDLも十分な可動域をもって行わえなければ、デッドリフトを教えても下のポジションを取ることはできないし、万が一取れたとしても、デッドリフトはケツが上がって肩が上がる、といったフォームになってしまいます。ただ、正しいフォームでRDLもデッドリフトも実施できて、そのうえスクワットでもある程度の重りを扱えるようになれば、クリーン動作を教えるのも容易になります。当然スナッチの導入も同様です。
全て正しいフォームで運動を確実に伝えつつ行えば、丁寧に順序立てたプログラムの下では、次に導入したい動作の指導自体が容易になり、指導時の手間も省けるということになります。
そしてこのようなプログラムであれば、指導対象者も「この人の言っていることがわからない。この”わからない”のは自分のせいなのか?自分に理解力がないのか…」という不安を持つこともないし、「この指導者の言ってることわけわかんない…トレーニングやめよう!」にも至る可能性を減少させます。
1対1の指導で、指導者の理想通りに指導対象者が運動のフォームもそのフォームを取り入れるためのキューを理解をすることもできずにいて、結果運動のフォームがいつまでたっても改善に至らない場合は、確実に指導者が悪いです。1対1であれば、指導者が考慮しなければならないのはたった1人ですし、その指導対象者に合った運動とプログレッションの選択と指導内容の説明ができなければ専門家とは呼べません。ですから、1対1または1対数名での指導で指導対象者が自分の思うように理解を見せずに改善していかない場合は、相手ではなく自分の落ち度です。
20名程度の複数指導時の場合、おおよそが正しいフォームを習得できている中で、ほんの数名が自分の理想的なフォームを得ることができずにいる場合は、あなたの指導は正しいです。ただ、半数に近い人数が理想的でないフォームの場合、指導に難があると考えてください。
運動指導している場合、指導対象者の運動フォームは指導者の指導力の鏡です。
できないことを要求し続けるのではなく、なぜできないのか、何が足りないのか、そしてどのような順序を踏めばできるようになるのかなど、いろいろ考えてください。
とにかく”WHY”の徹底をすることが、あなたのクライアントの本当の役に立つための基本姿勢です。