2025.12.15

指導力と試合準備の質

S&C専門家の僕の試合準備は、現状の選手の身体能力を十分に把握したうえで、提供された時間と体力を現実的に加味して、次戦までに必要とされる体各所の筋力を現実的な視点をもって向上させつつ、俊敏性などの身体能力や心肺&筋持久力機能を育成するアジリティトレーニングやコンディショニングトレーニングを、試合のニーズに沿って組み立てて行っていくというものです。

 

ただその準備は、競技指導者が気付き実践しければならない指導よりも格段に単純です。

 

つまり、競技指導者はもっともっと複雑で困難な点に気づき、微細な点の修正を計画し、磨く価値のある点は可能な限り磨き、現実的に向上が難しい点は一定レベルで無視し、相手の対応のために覚えておかなければならない技術を取り入れて、次戦に備えなければなりません。

そしてさらに次戦だけでなく、2か月後にできるようになるべきこと、そして2年後にできるようになるべきこと、をしっかりと把握して、その選手の育成に携わる必要があります。まぁ、この数年後先を見て指導をするという点ではS&Cコーチも同じですが、これに関しても我々の提供できる指導内容は、競技コーチたちのタスクの数倍単純です。

 

先日私が指導を担当する選手の大一番がありました。その試合に勝てば、世界の頂点に君臨するための試合に挑む権利を獲得できる。しかも相手は元王者でスーパースター。その選手と試合ができるようになる立場になったという事実だけでも鳥肌モノ…
ただ、僕は圧勝すると思っていました。まずうちの選手には優れた競技技術がある。その上で、どう悪くイメージしても、僕の選手の方が身体能力が格段に相手選手よりも優れているんです。でも油断は禁物。だから試合前に「相手も筋力があるよ」「君に勝つために相手もしっかり準備して体力もある」「でも、君の方が格段に強いし速いし体力もある」「だから焦らず試合を進めればちゃんと君が圧倒できる」と伝えて送り出しました。

ただ心の中のもっともっと大きな不安はそれ以外のことにありました。

相手選手が経済力も豊かなスーパースターだということです。
お金があれば彼の周りには人が集まります。そしてその人の中には優秀なコーチの存在もあるでしょう。その優秀なコーチが、まだまだ新進気鋭のうちの選手の対策をすでに丁寧に練っていたらどうしよう… それが今回の試合を迎えるにあたって、僕が持っていた一番大きな不安でした。「どうかまだそこに至っていないでくれ!」それだけを願っていました。

結果的には、本当に圧勝しました。うちの選手と彼の準備の強さがしっかりと際立つ結果でした。本当にありがたかったです。

しかし同じ日のメインイベントにおいては、僕が懸念していたような悪夢が絶対王者に降りかかりました。相手選手の対策が綿密で、まさかの敗退を喫したのです。試合後にソーシャルメディアに出てきたのは、新王者のコーチたちの緻密な作戦表でした。

「うちの選手にこれが起きなくてよかった…」

ただただそこにつきます。

世界トップレベルで、ファイトマネーも巨額になる団体においては、明日は我が身です。

 

これとは真逆に位置できる試合も先日ありました。

数年前にキックボクシングからボクシングの世界にやってきた若きスーパースターが、世界で最も強いと言われる兄を持つスターボクシング選手に挑んだあの試合です。
結果は、若きスーパースターが負けました。そして試合後のインタビューでは、その選手の準備不足が露呈しました。選手とコーチの両方から「もっと来ると思ったけど、来なかった」、そしてジムのトップからは「接近戦の準備をしたけど、練習の時点でうまく対応ができなかった」などと、準備段階での問題に関するコメントが続々と出てきて、結局のところ「経験の差」を敗因とした。

これだから負けたんです。まったくもって具体的ではない。具体的なのは、ジム全体の指導力が欠陥しているという事実だけです。

それに対して、世界最強の兄もそしてその選手も指導する父親であるトレーナーは、技術の差、引き出しの多さ、それらが勝因だったと言いました。つまり準備の差です。

せっかく素晴らしいい才能をもった選手なのに…
彼を勝たせるために数年かけて準備をするんです。使える武器と使えない武器を把握して、使える武器を丁寧に伸ばすんです。世界トップレベルの選手たちを相手に勝ち進むためには時間と体力を無駄にすることは決して許されません。その無駄をしっかりと起こしておいて「経験の差」とは無様な言い訳です。本当に選手がかわいそうで仕方ありません。

 

選手の成長策を練るのは指導者の仕事です。これに関しては以前ブログも書きました。

 

現実を把握すること。
これは、選手だけ見ても仕方ありません。その競技を把握して、ライバルとなる選手たちを把握して、傾向を把握して、将来を把握して、そして現状の選手を見るんです。
何があるか、何が伸ばせるか、何が伸ばせるけど現実的に次に間に合わないか、何を諦めるか、何を対策するか、何を恐れるか、何を恐れつつも諦めるか…
考えなければならない点は尽きません。

それが競技コーチの仕事です。そして「考えなければならない点」をより多く把握できるのが優れたコーチだし、その解決策をピンポイントで発想できるのが天才です。

天才になれとは言いませんが、そうなれるように効率よく努力をして、天才に対抗するために準備しておく。つまり「秀才」には、努力次第でなれるのではないでしょうか。そしてもし、そこに到達する自信がないならば、競技コーチは辞した方が良い。

質の高い発想も思慮もできない指導者は、とにかく選手の邪魔です。

 

S&C専門家は、競技コーチに比べれば楽な仕事です。
基本的に、すべての指導内容は科学的な背景を持っているので、自分がやっていることをその科学がバックアップしてくれます。その科学をある程度網羅した後は、確かにセンスが指導力の質を定めます。でも少なからず、頼るべきことは文章になって世にあるんです。

それに対して、競技指導者が必要な知識が文章となって世にある数は限られていると思います。それよりも、結局自身の現実的な発想力や思慮深さがその指導者の質を決めるのでしょう。

 

だとしてもです!
ある限りの文章は知りえておいた方が良いのではないでしょうか?

 

例えば、

スポーツ科学をどれだけ知ってますか?

身体構造、障害発生とその対策、身体活動に対する人体の反応、栄養、回復策、メンタル制御・・・・・・・・

それらを習得することで、競技指導がより現実的になることは十二分にあり得ます。そして、より具体的な対策を練る能力がつくことも十二分にあり得ます。

確かに学ぶべき項目は多いです。でもさっきから言っているように、S&C指導よりも競技指導の方が数倍難しいんです。諦めてください。

 

勝利も敗北も、当事者として経験するのは選手です。

スポーツでの成功も失敗も、当事者として経験するのは選手です。

だからこそ選手の指導者であるならば、”責任感”を是が非でも己の心の中から引きずり出し、選手のために成長しなければなりません。

 

対策を練る。

このドでかい謳い文句に、丁寧に現実味を持たせられる、そういう競技指導者がもっともっと増えることを心の底から願っています。

 

少なからず、S&Cの面でそれができる指導者を近くに寄せたいのであれば、うちに来てください。

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