2010.8.9
筋バランスそしてコーディネーション、そして何よりウェイトトレーニングテクニック!
先日のNSCAカンファレンスで、Long Beachで一緒にトレーニングをやっていた、現在はカナダのAlberta大学で教鞭をとっているLoren Chiuが言っていたことなんですが、人間のマッスルリクルートメント(脳から指示によって筋肉を収縮すること)の数はスピードではなく負荷の量で決まる、ようです。
スピードのある動きで筋肉を収縮するときと、筋力のマックスに近い重量を上げるために筋肉を収縮するときでは、リクルートされる筋繊維の数が違うようだ。
つまり、同じような動きでも、垂直とびとスクワットではマッスルリクルートメントの働き方が違ってきて、垂直とびのほうがマッスルリクルートメントの働きは少ないということです。
これはどういうことかというと、大腿筋とハムストリングの筋力を用いて考察した場合、もし大腿筋のほうがハムストリングよりも筋力が強い場合、垂直とびのように、非常に短い時間の中で筋収縮が起こるとき、筋力が強い大腿筋の活動が先行し、ハムストリングの活動は起こりにくいということでして、つまりは、ハムストリングの筋力が垂直とびに影響されにくいということです。
これは非常にもったいない。
それではどうすればいいのか?
単純に、大腿筋とハムストリングの筋力を等しくすればいいのです。
まずは自分の運動選手に垂直とびをさせてみればわかります。膝の屈曲度が狭く、上半身が極度に前傾していたら、その選手は確実に脚力がない証拠。そして、膝が曲がっていたとしても、その状態ですでにかかとが地面から離れていれば、その選手のハムストリングが大腿筋よりも格段に弱い証拠です。
そこでもう一度上にある2つのビデオを見てください。
まずはスクワット。
僕はスクワットを指導するときに、「膝がつま先よりも出ない」という指導はしません。かかとに体重を乗せたまま、最初の動きとしてけつを後方に突き出し、そのまま下降するように指導します。そうすれば、ほっといても膝がつま先よりも前に出ません。そして上半身です。胸も腰もまっすぐに、理想的には地面と垂直に近い角度でスクワットの全ての動作を行えるようにしたいんです。当然、垂直というのは無理ですが、それが理想なんです。僕が僕のプログラムに入ってくる選手全てに教えるのは、オーバーヘッド・ナローグリップ・スクワットというもので、これは両手をまっすぐ上に上げ(レベルが上がればメディスンボールやバーを持たせる)、その挙げた手のひらが下を向かないように耳の後ろにそろえて、その腕、胸、腰の角度を保ったまま、先に述べたように、かかとの上に体重をおき、けつを後方に突き出して、大腿骨が地面と平行、またはそれ以下になるまで下降する運動です。
初心者には非常に難しい運動で、多くの選手が数週間をかけてこの運動をものにしていくんですけど、これによって鍛えられた体の後ろの筋肉群「ポステリオールチェーン筋肉群」のおかげで、その後に続くトレーニングテクニックを覚えるためには非常に便利なんです。つまり、これができればフロント・スクワットもデッド・リフトもルーマニアン・デッド・リフトもクリーンもスナッチも、教えるのが簡単になるんです。いわばコーチにとって万能調味料です。
それを考慮して上のスクワットの映像を見ると、選手の上半身の安定、そして下降方法も僕がここで言っていたとおりのテクニックです。
そしてもうひとつ、声を大にしていいたいのですが、けつを後方に突き出し、そのまま下がることの利点は、スクワット運動を始めたその瞬間からハムストリングの収縮が起こることです。逆にそうしないとスクワットの最初の動作で体と重りを支える筋肉群は大腿筋となります。そして当然、そのようなスクワット運動を繰り返すと、その動きが癖になり、垂直を跳ぶときも大腿筋主体の動きになり、先にも述べたとおり、早い動きの中ではハムストリング群の筋活動が万全に起こらないジャンプとなってしまうんです。
でも僕のスクワット方法ならば、映像からもわかるように、ジャンプをするときでも、いつものスクワットのクセがその選手のコーディネーションとなり、まず最初の動きとして後方にけつが突き出ることによりハムストリングと大腿筋が同時に活動するようなボディーコーディネーションが出来上がるということです。つまり、短い時間で起こる「ジャンプ」という動きにも、下肢の前後の筋群がしっかり活動する体になります。
もう2つビデオを見てください。
ここで上げた2つのビデオは94cmと95cmの垂直とびビデオです。
どちらもすばらしい数値です。ただ、違いは準備段階での膝の角度でしょう。
2つ目の選手のディップは非常に大きいです。彼はすばらしい身体能力を持っていて、73.5kgの自体重で180kgのスクワットと125kgのクリーンをします。しかし、1つ目のビデオの選手の数値は79.5kgの自体重で127.5kgのスクワットと97.5kgのクリーンです。この数字もまったく悪くはないのですが、2つ目の選手の数値とは比べ物になりません。
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これらのビデオからわかることは、垂直とびのメカニズムと筋力の差を考慮しても、1つ目の選手は親からもらった筋収縮のスピードによって上方向に跳んでるということです。ですから怪我をする可能性が多いのも1つ目のビデオの選手です。考えれば当然のことで、上から落ちてくるとき、地面で自分の体を支えるのは自分の筋力です。筋力があればあるほど衝撃を吸収します。だから、筋力は馬鹿にできないし、テクニックもおろそかには絶対できないんです。
ここで紹介したビデオに出ている3人の選手全てが、僕とトレーニングを始めてから10cm以上垂直とびの数値を伸ばしています。だから、いろいろな体の特徴はあるとしても、筋力とボディーコーディネーションの向上が数値に影響していることは事実です
S&Cコーチは「動きのスペシャリスト」です。ただ筋力向上をさせるだけではありません。確かにスポーツごとに特殊性もあるのかも知れませんが、我々の使命は「よい運動選手」を作ることです。その結果、よい野球選手にもバスケットボール選手にもバレーボール選手にもなるんです。まずは体全体をひとつのユニットとして動かすことのできる、「効率のよい体」を作ってあげることが、強くて速い選手を作る第一歩なんです。
正しいウェイトトレーニングテクニックと理論を知っていることは、そのまま正しいテクニックを伝えられることにつながります。
あなたの運動テクニックは正しいですか?
正しいテクニックを選手に伝えていますか?
健康的で強い体を作り出し、明日の日本のスポーツ文化をより高いところまで運んでいきましょう!!!
いやぁ、あまりに暇なんで、とんでもなく長いブログを書いてしまいました・・・