2011.10.3
心の才能の重要性
うちの男子バレーボール部に、今リベロとして活躍している選手がいます。
半年前では、今の状況を予想できなかった選手で、この夏を越えてすさまじく評価を上げた選手です。
この選手の身体能力はすばらしく、垂直とび:85cm、スクワット:自重の233.39%、クリーン:自重の178.01%出来ちゃうような子です。彼の名誉のため、ベンチプレスの数値だけは伏せときますが、バレーのリベロにそこまでの上半身で押す力は必要ないことも付け加えます。ただ男としては・・・
ただ、そんな彼でさえ、うちの男子バレー部ではポジションを得ることはおろか、Aチームに残ることすら難しいのです。実際に、185cmあって95cm跳ぶ選手が、今チームのサポートに回っています。
日々チーム内の競争が激しいからこそ、レベルの高いチームを作れるのですが、その中で、いかに自分の輝きを人に気づいてもらえるかが、高いレベルになればなるほど必要となってくるのです。
そして、その方法は自分で見つけなければならないし、チャンスがあれば、絶対に逃すことは出来ません。
この選手は、1年次からトレーニングに対する心がけも高く、むしろ、選手としてチームの中でポジションを確立できなかった半年前までは、彼のチームでのアイデンティティーは「ウェイト」でのみ保たれていたような感もありました。
そんな彼が、夏前にやってきた最高のチャンスを物にして、今では選手として絶対的に必要な選手へと評価が上がりました。
凄くうれしいことです。
リベロ(Libero)というポジションは、ディフェンスのスペシャリスト(Defensive Specialist)です。
実際アメリカの大学ですと、スタートで出るリベロはLと表記され、控えで出てくる選手はDSとなります。つまり、Lはチームで1人だけで、Lという称号は、DS中のDSにしか与えられないです。
チームにとって最後の砦。サッカーのゴールキーパーのようなものです。
彼のチームメイトがこんなことを言っていました。
「奴が後ろにいるとやりやすいんです。僕が打ったあと確実にフォローしてくれるんで、思いっきり打てるんです。」
リベロとして、こんなにすばらしい評価のされ方はないです。
確かに、試合を見ていると凄い動き回り方をします。そしてよく拾います。チームの雰囲気をよくするための声もよく出ています。
彼が持つ「才能」を遺憾なく発揮しているのがわかります。
1年前に、彼を「日本代表」として、アメリカに連れて行ったことがあります。
といってもたいした大会ではなく、うちの学校内でも僕がトレーニングしている選手のみが対象で、その中でも19歳以下で、希望さえすれば出れるような大会なので、その年の出場可能となる対象者も彼だけでした。
彼はそこで「幸運にも」代表選手に選出され、ディズニーワールドのあるフロリダ州オーランドで開かれた大会では、ディズニーの1流ホテルに泊まり、テーマパークも2つまわることができ、そのついでに、4つある大会競技の中の1つで「世界記録」を打ち出して帰ってきたのです・・・
ただね、大学のチームでは選手としてポジションを確立できなかった彼にとって、「日本代表」として臨むその小さな「世界大会」は凄く大きな大会であっただろうし、「外人」に囲まれて競技をするのも初めての経験でしょうから、彼が感じた緊張やプレッシャーはすさまじいものだったに違いありません。
実際、競技として最後に行われた、彼が「世界記録」を作った競技までは、緊張でいつもの調子が出ていませんでした。その状況が悔しくて、最後の最後に意地を見せての「世界記録」だったのでしょう。
その競技が終わって、僕に「よくやった」と頭をなでられたときは、涙が出そうになったそうです。緊張の糸が解けたのでしょう。
そしてそんな彼が、今はうちの男子バレー部のリベロ。
本当に半年前までは、監督でさえ計算に入れていなかった戦力でしょう。なんたって、この夏が終わればチームの裏方として本格的に活動し始める予定すらあった選手ですから。
しっかりと結果を残すというのは難しいことです。
特にレベルが高くなればなるほど、自分の100%を出しても届かないものは多くなります。その中で彼が手にしたものは、ポジションだけでなく、チームの中での信頼と尊敬です。
きっと後輩たちにとっても、明るい未来の可能性を見せることが出来たのではないかと信じています。
今後も、あきらめずにやりきろうとする選手が、その努力に値する評価を得ている光景を多く見ることが出来たらな、と願います。
最後に、彼が世界記録を出した瞬間を見てやってください。