2013.10.15

複数指導時の指導対象優先順序

先日Facebookで河森博士からヒントを得まして、今回は、同時に複数選手をどのように指導をするべきなのか、ということを書きます。

多くの選手を同時にトレーニング指導する場合、全ての選手の全ての動きに注意を払うということは不可能です。だからこそ、トレーニング初期に基礎的動作を徹底して教え、1レプすら適当にできない雰囲気と、チームメイト同士でも注意を払い指摘し合う文化を植え付ける必要があります。でも結局、複数の選手がいれば、能力が高い選手もいれば低い選手もいて、やる気がある選手もいればない選手もいます。それらすべての選手に均等の指導の思惑や創造力と手間をかけるのも難しく、そうなると、意外と能力の高い選手よりは低い選手、そしてやる気のある選手よりは低い選手に、指導者の労働力は向けられてしまう傾向にあることも確かです。
それでは非常に効率が悪いので、今までの僕の経験と、「スポーツ」の特性から、今回は同じ悩みを持つ方に「提案」をしてみたいと思います。

何よりも先に述べておかなければならないのは、僕の指導のモットーは「効率的かつ効果的」です。
この「効率的」という言葉には、無駄な時間と労力は抑える、という意味もありますが、スポーツ選手指導の目的が「勝利」である以上、その「勝利」に対しても最短距離であるべきだ、という考えも含まれています。
その場合、下記のような優先順位で、指導のスタンスをとる必要があるのではないかと僕は信じています。

1.エース
スポーツは不公平です。試合に出られる選手の数は決まっていて、その試合では勝者がいれば必ず敗者もいる。そして何千チームが参加しても、そのトーナメントで優勝できるのはたった1チーム(または1個人)のみ。スポーツというのはそういうものなのです。である以上、その文化は指導時にも取り入れられて然るべきです。試合に出て活躍する選手(またはそうなる潜在能力の高い選手)により多くの目を向け、彼らがよりしっかり成長すれば、より「勝ち」に近づけ、しかも、S&Cプロフェッショナルの仕事としてもより「成功」に近づけます。であるならば、指導時に自分を位置づける場所は、エースの真横です。僕はシーズン中のトレーニングプログラムさえ、必要があればチームの中心選手に合わせて作成することも当然のように行います。例えば、クリーンのキャッチ動作に問題のある選手2名がチームの中心選手である場合、そのチームのイン・シーズンのプログラムからクリーンを取り除きます。また、チームのエースは試合中の運動量も他の選手に比べて格段に多いです。高いレベルの試合が続き彼らの疲労度は非常に高くなるのであるならば、彼らのためだけに、トレーニングの強度も量も落とします。「勝利」が目的なのだから当然です。

2.強い選手
より重い重量を扱う選手(または他の選手に比べ高い成長率を見せている選手)は、個人的にも応援したいし、何よりも成長する可能性も怪我をする可能性も他の選手より高いです。だから、弱い選手よりもより多くの目を向けます。

3.より意識の高い選手
上の2項目に当てはまらなくても、機会があれば僕に声をかけ、「次のセット見てください」と頼んでくる選手や、「どうすれば僕は成長できるのでしょうか?」「なぜ僕はこれが不得意なのでしょうか?」と深刻に悩み、真剣に改善するために励む選手には、その気持ちに応えるために僕も彼らの努力に見合う努力をします。

これらにあてはまらない選手の場合、僕は基本放っておきます。先にも述べたように、基本的な指導はします。ただ、それ以降は放っておいて、上記にある選手の指導をする必要がなく、偶然僕の目に留まった時に、注意をするくらいで留まります。

なぜか?

それがスポーツだから。
スポーツで、遅い、弱い、鈍い、下手、というのは罪です。スポーツの目的は「勝利」です。だから、この目的からチームを遠ざける選手は「勝利」を目標としているチームにとって迷惑以外何物でもないです。
自分がレギュラー選手よりも優れていないからこそ試合に出れないのです。試合に出ることがないならば、チームの勝利に貢献することもできません。「練習相手でいること」という勝利への間接的要因のみが彼らがチームにいる理由ですが、例えば彼らが2軍とかBチームにいる場合、その価値すらありません。あるとすれば、「応援すること」という、スポーツ好きの近所の親父ですらできる、チームにいる必要はないレベルの「勝利」への援助です。
選手としてその程度のレベルでありながらも自分の身体能力を向上させようとする努力をしないのであるならば、それら選手に余分な時間と労力を割く必要は、僕のように大学で雇われたS&Cコーチにはありません。
僕が常々2軍やBチームに所属する選手を指導し始める時に言うセリフは、
「与えられると思うな。自分で無理やりにとりに来い。出来なかったら自分でひたすら練習しろ。見てほしかったら自ら進んで手を挙げろ。求めない奴には絶対に何も与えない。」
です。
ただ悲しいかな、そういうグループにいる奴等ほど、自分で取りに来るようなことはしませんが…
というのも、一軍で試合に出ている選手ほど、対外試合でより多くの悔しい経験をすることで、「もっと成長したい!」という思いを強くしているという現実もあるがため、彼らの方がより多くを求めて来るんです。
2軍の奴等にしてみれば負のサイクルですね。

とにかく、指導者もより「効率の良い」指導のスタンスをとることで、より高いレベルのチームを築くことができます。
なんだったら、僕がもしすべての競技チームの何か1つの要素を変えることができるのであるならば、2軍やBチームという存在自体を全チームから撤去します。

最後に、もしまったくやる気がないエースがいて、彼が僕のS&Cプログラムにも一切興味を示さずにいたらどうするか。
監督と相談して、やらなくていい、という選択肢を与えます。または、どうしてもと言われれば、「赤ちゃん特例」を出して、ベビーシッターをアシスタントやチーム内の“付き人”的存在の奴に任せます。
理由は2つ。まずは僕のプログラムの助けが必要ないくらいもうすでにエースとしての価値があるならばもうそれで十分じゃん、と思っているから。もう一つは、僕の労力がもったいないから。
まぁ、そういう選手の態度をチーム内で浄化してもらう以外、週に数度しか会うことができないS&Cコーチには何の手立てもありません。

上記はすべて僕のつたない人間性から出た策ですので、万人に受け入れられる指導方法ではないのかもしれませんが、参考になるならば参考にしてみてください。

以上。

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