2016.5.30

運動指導者への教育は運動指導者のためではない

僕がS&Cスペシャリストになるための学習と経験を積むときの環境は非常に恵まれていたと思います。
学術と実務で世界中のどこにも引けを取ることがない指導者の下に身を置き、とてつもなく有意義な学びの場でした。そしてその学びの場が米国であったことも大きな利点となっています。大学院まで米国でS&Cを学ぶということは、当然ながら英語で聞き、英語で訊き、英語で読むということでありますから、今日においても継続教育に英語を当然のように取り入れる能力が勝手についていたという利点は、思った以上に有利に働いているみたいです。
前職場の学生の英語力が比較的超低レベルであったため、彼らに英文ジャーナルを読解する能力と習慣を与えることがとてつもなく度が過ぎで難しいことであることはわかっていました。それでも必要なことだと思い僕の下にS&Cスペシャリストになりたいという志を持ってやってくる学生たちには強要していました。そして、現在東京で後進の指導とS&Cプロフェショナルのネットワーク拡大を目的として行っている「S&C塾」においても、仙台大学で提供していた時と同じ文献を取り上げ、塾生に課題として与えています。
その文献が下の3つです。
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これを取り上げている理由は、これらにはS&Cスペシャリストになるために必要な基礎中の基礎が入っているからこそ知識として必要という意味合いもありますが、それ以上に、英文とはいえ基礎中の基礎の内容が入っているからこそ読みやすく、これだけ面白い文献を読めば、多くの場合英文文献への継続的な取り組みの重要性に気づく、という効果があるからです。

 

最初に紹介した文献は題名をGoogleにでも打ち込めば誰でも取り出せるので、試しに読んでみてください。
ここで少しその内容に触れますが、この文献は実験文献ではなく、僕の恩師Dr.Gのエッセイです。彼が思う「S&Cスペシャリストになるために必要な項目」です。学術面はもちろんのこと、パワーリフティングやウェイトリフティングを含む実技能力、競技経験やコーチ経験、上記ウェイトトレーニングに加えメディスンボールやプライオメトリクス等のデモンストレーション能力と指導能力、マイナーな器具修繕能力、コンピューター操作能力などがS&Cスペシャリストには必要だと彼はこの文献の中で述べています。そこに僕は、日本人であるならば、という前提を加えた場合、「英文ジャーナル読解能力」を加える必要があるという信念をもっています。
その理由は、僕が過去に書いたこれや、野口さんが書いたこれ、そして河森博士が書いたこれを読んで理解しようとしてください。そしてもしこれを読んでも結局「でも専門知識とか技術って英語でなくても手に入るし、なんだったら日本語に訳されるものだってあるんだし、S&Cスペシャリストに英語必要ったって、そこまででもないでしょ。アンタらが読めるから調子こいてそんなこと言ってるだけでしょ…」という思考に至る方々、どうかこの業界に足を踏み入れることをあきらめ、もし足を踏み入れている方であるならば、それこそ足を洗ってください。

というのもですね、そういう考え方って、重り挙げたことない人材がS&Cスペシャリストを名乗るときに利用するわけわかんない「バランス」だとか「インナーマッスル」だとか「コア」だとかの重視からの傾倒、及びそれが自己防衛に至ったときの信仰と同じだと思うんです。「できない⇒否定」という負の方程式ですね。でもやはり大事になんですよ、S&Cスペシャリストには。

また同様の例でいえば、日本のS&Cスペシャリストにクリーンやスナッチなんて必要ないと言えば必要ないのだけれど、こういう実技に関してはなまじっか興味があって自信もあるから身に着けたい、だから一応肯定もしておく、という志向に至る人が「英語はいらない」に至る場合にかなり強い矛盾も感じてしまいます。

結局、自分のことしか考えてないんじゃん…と感じるからです。

 

先日こんなこともありました・・・

国内のS&C専門教育団体が主催するセミナーの講師として打診を受けたので、その講義内容を模索していて、その際に英文解説という内容はどうか?しかもただの英文解説でなく、実際に上で紹介した論文を受講希望者に読んでもらって、その概要訳・感想・学んだことを記して提出することで参加申し込み完了(文明の利器を使ってずるをする人もいるけど、そんなの文面読めばわかるから、内容をチェックして妥当な内容であった提出者のみ申し込み完了)という、事前段階からの受講者参加型セミナーを開催しよう、という名案(?)にたどり着いたわけです。

でですねぇ…基本的にこの教育団体の悪いところは、その教育する内容やS&Cだと言い張って取り上げる内容の稚拙さなんですが、故に未だかつて英文読解の重要性を真剣に説いたことすらない。会員たちが居心地のいいようなセミナーしか開催していない、むしろ、協会自体のS&Cに対する知識や尊重の質が低いため、結果的になんだかわからないセミナー内容ですらその教育団体主催として受け入れてしまう体すらある。だからこそ、本当にレベルの高い知識や技術を求める会員たちのために、そしてその協会が持つ闇を明らかにするきっかけづくりをするためにも、セミナーを開催すれば即座に定員を埋めてきた僕が(自惚れと呼んでください…)そのように面倒な条件付きの英文読解セミナーを開催し、「いつもの加賀のセミナーだったら行くけど、英文がらみなら不得意だから行かないわぁ…」という決断に達してしまう人材たちの心に「へぇ…実技とかなら来るけど、英文だと来ないんだぁ…で、それでいいの、運動指導者として?」と訴えかけることができると信じていたんです。このセミナー企画を聞いて、僕に講師を打診してくださった方も「それは名案!」と共鳴してくださって、いわゆる”上の方”に企画を上げてくださったんですね。そしたらその”上”からの答えが、やはりウダウダのユルユルの内容だったんです。しまいには、会員のためになるとは思えない、高圧的である、違う形でも加賀らしい講義は開催できるはず、的な内容で却下されたんです。

で、ここからが実はこのブログの本題なんですけど、会員のため、という言葉を使いこのセミナー内容を却下するということは、この内容では難しすぎるし高圧的すぎるから、協会の指導方針にも合わないし、何より難しいし、会員が嫌がっちゃうよ…ってことを伝えたいんだと思うんですよ。でもね、いつも運動指導対象となる選手たちの思考や方針(できれば楽な練習をやりたい…)とは違う厳しいことを高圧的に指示して、無理くり実行させてる職業についている人が何言っているんだい?!って思ってしまうんですね、僕は。

難しいけど役に立つことをやらせて何が悪いんです?

高圧的ととらえられようが、その選手のためになるからこそ自信を持ってきついトレーニングを実施する態度を崩すわけにはいかないのがS&Cスペシャリストですよね?

そしてね、我々が専門家としての能力を伸ばさずに低レベルでウダウダと停滞した挙句にクソみたいな運動指導の質しか選手たちに提供できないならば、損をするのはその指導を受ける選手たちだって身にしみて感じつつ指導したことあります?(まぁ、そこまでの認識に到達しないからこその却下なのかなぁ…)

 

あのねぇ、運動指導者の成長は運動指導者のためじゃないんです。

実際、我々が伸びたところで給料が上がるわけではありませんし、社会的立場が向上するわけではありません。

実際、日本や世界を代表するアスリートについている運動指導者が彼らの競技レベルに相当する優秀な指導者であるというわけではありません。つまり、我々が運動指導者としての能力をどれだけ上げようが、実は我々に還元されるということはすごく少ないんです。

まぁ、だからこそグズグズでウダウダな教育レベルでもオッケーだし、その程度の低レベルな専門家であってもこの業界やっていけちゃう、というのも事実です。悲しいかな…

それでも我々は向上しなければならないんです。運動指導対象者のために。

彼らが無駄に苦痛を経験しないで済むように。

彼らの汗や時間やお金が無駄にならないように。

 

だからこそ、その専門教育団体は、会員でなく、その向こう側にいる運動選手やクライントのために高レベルな教育を与えていかなければならないんです。しかしながら、ここ最近の彼らが主催するセミナーの内容を読んでみると、会員が喜ぶような内容しかない。

つまり地獄のような低レベルです。

科学と現場の架け橋とか言いながら、科学のかけらもないようなセミナー内容がその協会主催セミナーに名を連ねていますよ。

スポーツ科学者の血と汗の結晶への冒とくでしょ…

あなた方はその”架け橋”であなた方自身が生み出した盗賊に科学をごっそり奪わせているんですよ…

 

競技力向上を目的としているのがS&Cです。そこに結び付くような人材育成を目的としたセミナー内容を”会員を思って”却下し、受講者寄りすぎてその内容が選手たちに競技力向上として還元されるみこみすらのない、会員と主催者のオナニーのようなセミナーを開催することが目的だっていうんだったら、ハナからS&Cを名乗らないでいただきたい。

 

英文読解能力をつけることは面倒です。己の経験からそんなことは百も承知です。実際、上で書いたような英文読解教育を掲げたとたんに、僕の手元からいなくなった学生も塾生も複数います。しかしながら、しっかりとこなしてその後も僕の下にいた人材は、その英文ジャーナル読解能力の重要性に気づきます。そして「自分は運動指導に英文の影響を取り入れている」という自負が、彼らの知識だけでなくプライドの構築の手助けとなり、僕が指導するその他の知識や技術も大いに助け、少なからず先述の協会の方針のもとに育成してきている人材よりも高いレベルで運動指導者としての能力を高めています。実際に、その教育団体の検定員に位置づけされている人材が僕の指導現場を見たり、実際に僕の塾に入り、「これまでにないレベルの高いS&Cだ」という認識を持ってくれています。

確かに僕のS&C教育は厳しく高圧的かもしれないけれど、先述したような僕たちの職業が置かれる立場を考慮すれば、それだけ鬼気迫りながらの指導になるのは当然だと思うんですよ…

 

会員を増やしてお金を確保することが重要であることも理解します。

あまりに難しいことをすると理解できないことはおろか、協会を辞めてしまう人材がいることも理解します。

ただ、S&Cを名乗る以上、会員よりもその会員の向こう側で汗をかき筋肉痛を経験する人材のことを強く想いながら、専門教育を企画・実行していくことのほうが重要です。それがS&Cなんですよ。

 

英文読解能力は大事です。

日本人S&Cスペシャリストが、実技能力や運動指導能力の確保と同時進行で進めていくべき項目です。

英文読解能力の確保に限ったことではなく、現状の教育方法や内容では、向こう側に選手たちが体力や時間を無駄にする光景を広げるだけのような気がしてなりません。

それを明確にすることを目的としたプロジェクトを、専門教育団体がやらないなら、細々ながら強い意志と信念で、僕は僕に共感してくれる仲間たちとやっていきます。

GS Performanceはとてつもなく必死ですし真剣です。

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