2018.9.25
現実にはPlateauも限界もある
筋力には限界があります。
やればやるだけ筋力がグングン上がるなんてことは残念ながらないです。
必ずPlateauがやってきます。それでも少しずつは上昇しますけど、やはり筋力の向上は滞ります。
例えば、大学入学と同時にS&Cコーチの指導の下ウェイトトレーニングを開始します。週に2~3回の適切にプログラムされたトレーニングを継続的に実施すると、大学2年の秋までの間にかなりの筋力向上を経験することができます。しかしながら、同じ割合での筋力の向上はそれ以降も起こることはおおよそありません。なぜなら、そういうもんだからです。
そして選手たちは、2年の秋くらいから、向上した筋力を基に瞬発的な動作や競技技術にポジティブな適応を起こし、2年の秋から3年の夏頃にかけて、劇的に足が速くなったりジャンプ力が高くなったりします。そして競技では球速が速くなったり、シュート力やアタック力が上がったりと、諸々の向上を見せます。
逆の側面から言うと、ウェイトトレーニング開始後1年ほどの頃、極端に上がった筋力が、今までの競技中の感覚と喧嘩をし、競技技術や瞬発的な競技動作に悪影響を与えます。それでも、部活の一環として行われているウェイトトレーニングをやめることはできず、しかも部活動も当然継続して行います。その半年後、またはいつの間にやら、筋力の向上はPlateauに達して極端な成長が止まり、それと同時進行で自身の新しい筋力と柔軟性に技術が追い付き、今度は競技力が向上している自分に気づくのです。
どのようなかたちであれ、劇的な競技力の向上を経験した選手たちは夢を見るようになります。
「このままいったら、数か月後には俺はあんなことやこんなことができるようになるんではないか・・・」
しかしその夢は、期待していた通りに起こることはありません。
これもまた、残念ながらそういうもんなのです。
SNSでは、ウェイトトレーニングにネガティブな印象を持つ意見を見ることがあります。
ウェイトトレーニングを徹底的に行ったけれど、競技力向上に活きなかったとか、怪我してしまったとか、足が遅くなってしまったとか、球速が遅くなってしまったとか・・・
適切にプログラムさせ、適切に指導されていれば、ケガをすることはないし、トレーニングと同時進行で競技練習に励んでいれば、諸々のスピードが落ちるということはないはずです。しかしながら、競技練習以外の苦痛をウェイトトレーニングで味わっているからこそ、ウェイトトレーニングを責めたくなってしまうのでしょう。その気持ちに同情はしますが、同調はできません。
劇的な筋力の向上とともに爆発力を含む身体能力が上がり、その身体能力は様々な形で競技に好影響を与えます。しかも懸命にやっていれば、その好影響も劇的な形で訪れるでしょう。しかし、その劇的な変化も必ず限界に突き当たります。その時に、同様の劇的な変化を求めるのは危険です。
「あぁ、Plateauにとっついたな」
と冷静な判断をしてください。
その瞬間までの劇的な変化から「捕らぬ狸の皮算用」をしてしまい、「このままいけば自分の競技レベルはあぁなってこぉなって・・・」と期待を膨らませると、自分をガッカリさせてしまうことになります。なんだったらウェイトトレーニングに「裏切られた」気持ちさえ生まれるかもしれません。
裏切られていません。信じて継続してください。少しずつではありますが、向上は続きます。
*ただ、「S&C指導者の指導の下、適切にプログラムされたトレーニングを実施している環境にいる」、という条件は必須です。
また、Plateauが来たからもう筋力の向上を起こすほど筋トレをする必要はないな・・・という判断をするのもどうかと思います。(まぁ、筋トレはするけど筋力向上はさせないし低下もさせない、というプログラムを作るのはなかなか難しい、という事実はありますが、それはここでは論じません・・・)Plateauが訪れても、成長はします。そしてその成長が大きな差を生むかもしれません。スポーツとはその小さな変化が勝敗を分けるものなのです。
確かに衝撃的な成長は起こりませんが、やり続けることは確実にポジティブです。
また、もしトレーニングをやめてしまった場合、その時点でせっかく到達した競技レベルも低下します。
例えば、野球のピッチャーが、大学在学中に競技練習と並行してS&Cコーチとウェイトトレーニングに励み、成果が実ってプロ野球選手になれたとします。しかしプロに入ると環境の変化は当然起こり、高レベルとされている人材からの様々な情報に惑わされ、ウェイトトレーニングの習慣はなくなり、大学時代にせっかく築き上げ、プロのスカウトに注目させたそのパワフルさと共に競技力まで落ちていったとしましょう。
もったいないことこの上ないです。
到達した競技レベルが高ければ高いほど、もったいないです。なぜなら、競技レベルが高ければ高いほど、努力だけでどうにか到達できるものではないからです。才能があるからこそです。多くの人が求めるその才能を発揮して到達したのに、その努力をふいにしてしまう決断を下すのは、本当にもったいないのです。
今の自分では届く可能性が低い競技レベルで活躍することを目指すからこそ、身体能力を向上させて技術をつけるのです。それが多くのアスリートがウェイトトレーニングに励む理由のはずです。
今いる競技レベルでの活躍が停滞している状況で、ウェイトトレーニングを実施することを選択せずに、技術の向上だけに励んでも、結果がついてくる可能性は低いでしょう。
なかには、ウェイトトレーニングをやって得られる変化が技術習得の妨げになる、と言い切る人たちもいます。
きっとウェイトトレーニングをやったことがないか、上記したような形でウェイトトレーニングに「裏切られた」人たちなのでしょう。
しかし、目指すレベルが高ければ高いほど、ウェイトトレーニング無しで目指す場所に到達する可能性は低くなります。
そこを忘れて、ウェイトトレーニングの実施を、または継続することを否定していては本末転倒です。
そしてウェイトトレーニングを用いた努力の結果、高いレベルに到達した後に、ウェイトトレーニングを見限るのはもったいない、という話はすでにしました。
Plateauは必ずやってきます。残念ながらやってくるのです。いつまでも劇的な身体能力の向上が起こるようなトレーニング方法があれば、私が知りたいくらいです。
関節への健康的な刺激を基に築かれたウェイトトレーニングテクニックにより育てられた筋力と柔軟性は、競技動作にも健康的な影響を与えます。筋力、特にエキセントリックの筋力の向上は、競技動作の中で各関節に襲い掛かる強い衝撃も健康的に吸収してくれます。結果的に、慢性の怪我を起こすことも予防でき、より多くの質の高い練習に参加させる権利を自らに与え、重要な試合でフィールドやコートにしっかりと立たせてくれるのです。そして、競技人生もより長くしてくれるでしょう。
SNSでは様々な意見が飛び交っています。
ウェイトトレーニングをやったことがない人、ウェイトトレーニングにネガティブな印象を持っている人、ウェイトトレーニングをただただ面倒だと思っている人、ウェイトトレーニングに裏切られたと思っている人、自分の競技にはウェイトトレーニングの成果が好影響を与えにくいと信じている人、そういった人たちの人数は、ウェイトトレーニングを心から推奨したい人たちの人数を軽く凌駕します。
しかしながら、科学的な背景を覗けば、スポーツ科学の中では、ウェイトトレーニングをすることの利点は、しないことの利点をはるかに凌駕しています。
ウェイトトレーニングは確実にアスリートの味方です。つまりS&Cはアスリートの味方です。
競技技術は競技指導者とアスリート頼りではあります。そしてSNSにはその発言を無責任と発している人たちもいます。
しかしながら、筋力に限界があるように、S&C指導者にも限界があります。むしろ、競技指導者がどうもできない競技技術を、我々S&C指導者に委ねてもらってもどうしようもありません。「ウェイトのせいで技術が体に入りにくくなった」というセリフも付属品として必ずついてくるのですが、その根拠は”感覚”以外のどこにあるのでしょうか? シュートが入らないことを、ストライクが入らないことを、ブロックが出来ないことを、サーブが決まらないことを、S&C指導者のせいにするのであるならば、S&C指導者は、筋力を向上させた事実を、ジャンプ力を向上させた事実を、スプリント力を向上させた事実を、方向転換能力を向上させた事実を、体重に変化を加えずに筋量を向上させた事実を、数年間怪我を起こさなかった事実を、データとして提出できるのです。それらを見て、「それとこれとは別問題」という指導者や競技者がいるのならば、その人たちに我々S&C指導者はそれらデータと共に「じゃあアンタたちは何をやったんだい?」と問えます。
そういうもんなのです。
S&C指導者は、常に限界の存在を知りつつその限界にチャレンジし、PlateauにとっついたらそのPlateauを突き抜ける策を探り、少しでもそして少しずつでもアスリートの弱点を改善し長所を伸ばす工夫をして、アスリートに寄り添い、彼らの最大の味方になれるよう努力をし続ける職業なのです。
そしてその”策”には、我々S&C指導者の何倍も頭のいい科学者たちが提供してくれたデータや情報をビッチリと詰め込み応用しアスリートに還元しています。
それでも限界はあるのです。むしろ、限界を知っているからこそ、科学者たちはどうにかしてその限界の天井の高さを上げようと努力し、我々S&C指導者はその科学で証明されたことをアスリートが消化しやすいように咀嚼し、提供するのです。
S&C指導者は魔法使いではありません。
むしろ、現実的な人間だからこそ、弱点を確認し、的確なアプローチ方法を模索し、実行に移し、・・・・と堅実に指導対象者に適したトレーニングプログラムを企画し着々と進めるのです。
その中心にあるのは、ウェイトトレーニングです。
アスリートの皆さん、ウェイトトレーニングに疑問を持ったり否定する前に、是非懸命に実践してください。そして実践する際は、自己流ではなく、S&Cプロフェッショナルに指導を依頼してください。しかも単発や短期間ではなく、長期間で。
ウェイトトレーニングとはそういうもんなのです。