2014.3.5

FBからいくつか

ここでも数度紹介したことがあるS&Cコーチで河森直紀という方がいます。
僕自身も、S&Cプロフェッショナルになるためにかなり高等な留学をしてきたと自負していますが、僕が持つ知識の中で僕よりも高等な留学をした人がいるとするならば、彼しか思いつきません。現時点で、日本が世界に誇ることができる非常に数少ないスポーツ科学者の1人でもあります。
そんな彼が、先日Facebook(彼のTwitterでも同内容が確認できるようです)でこのようなことを述べていました。

「サポートする側の人間の『アスリートを勝たせてあげられなかった』という発言には、『自分たちの力で勝たせてあげることができる』という驕りがみえる。勝つのはアスリート本人で、他の人が勝たせてあげることなどできないはず。」
「責任感のある発言だと感じる人もいるかもしれないが、私には無責任な精神論にしか聞こえない。自分の役割の限界を認識したうえで、その役割の中で自分にできるベストを尽くすのが本当に責任感のある行動だと思う。」
「勝つアスリートはサポートしないでも勝つものだし、勝てないアスリートは周りがどれだけサポートしても勝てない。S&Cコーチとしての自分の役割は化学反応における「触媒」のようなものと考える。化学反応の種類を変えることはできないが、反応速度を早めることはできる。」

人間、どんな分野に関しても向き不向きがあります。
「才能」とか「センス」という言葉で埋められるのですが、どれだけ頑張っても、この「才能」は指導者が与えることができない代物です。
では、スポーツで勝つための才能とは何か?
まずは体格。そして身体能力。当然運動神経。そして脳力と精神力。これらの高レベルなコンビネーションが「エリートアスリート」に結びつきます。
河森博士の「勝つアスリートはサポートしないでも勝つものだし、勝てないアスリートは周りがどれだけサポートしても勝てない。」というセリフは、つまりはこれらに起因するものだと思います。
オリンピックなんかを見ていても、そのシーズンのワールドカップ等の大会で上位3位に常時入っている選手になって初めて、オリンピックでもメダル獲得候補となります。たまに上位に入るような選手に優勝はおろかメダルすら期待できません。つまりおおよその場合、勝つ選手は、ほっといても勝つんです。
指導者の「勝たせてあげられなかった」発言に関しては、「準備段階で自分ができることはもっとあって、それを十分にしてあげることができなかった」という後悔が含まれていると考慮できますが、心底「選手が勝てなかったのは完全に自分のせい」とは思っていないとは思います。ただ、諸々の後悔を少し大げさに表現してしまっただけでしょう。
確かにどんな選手が負けた場合でも、サポートスタッフのサポート力が敗因の一つに数えられることは間違いありません。でも結局競技に参加して結果を出すのは選手だから、指導者がどれだけ高レベルのサポートをしたとしても、それらの努力は指導している時点からすでに勝利に対して間接的な行為であり、だからこそ「勝たせてあげられなかった」コメントはその指導者のエゴに近い発言であり、河森博士のいう「無責任な精神論」に聞こえてしまうのです。
オリンピック等のビッグイベントでの勝利に限らず、スポーツ全般で同じことは言えます。
S&Cコーチの認識として「速い選手をより速くはできるが、遅い選手を速い選手に変えることはできない」という考え方があります。
つまり、どれだけ優れた指導者であろうと、才能だけは改善できないということです。そしてスポーツで勝利するために必要な「才能」を改善することができない時点で、指導者は「勝利」に対しては非常に微力なのです。
僕のように大学で指導している場合、まずはある程度身体能力や運動神経に優れた選手(それらがない場合に許容範囲として受け入れられるのが体格で優れた選手)を相手にするという大前提があります。それら身体的にスポーツに優れていると同時に、脳力や精神力があって初めて、大学レベルで日本一を狙えるチーム作りに役立つ選手となります。それらの一つでも顕著に欠けている選手が大学の体育会レベルで競技をすることはできないし、するべきではないというのが僕の考えです。
スポーツに真剣に関わったことがない人に限って、「やればできる」とかホざきます。「真面目に真剣にやっていれば」とか平気で口にできるのです。
やればできるのは才能がある人材だけです。無い人間はどれだけ真面目に真剣に取り組んでもダメです。
それがスポーツです。
スポーツの目的は勝つことです。(これに関しては前にも少し書いたので、これを参考にしてください。)
「楽しさや、友達作りもスポーツの目的に…」とか思っている人、確かにそれは副産物としてはありますが、主目的として論じているのならば、それはスポーツに関しての発言として受け入れられません。楽しさ等はエクセサイズに関しての発言ですので、知識の入れ替えをしてください。
心身ともに才能にあふれていて初めて、運動選手としてエリートになれます。
そして、スポーツはすべての人を満足させるためにあるのではありません。
順位を付ける行為がある以上、スポーツは常にアンフェアなのです。どうかお忘れなく。
その中でS&Cプロフェッショナルは、その選手が持つ才能の可能性の極限まで近づくための努力をさせる補助ができるだけです。ただ、その才能が開花した結果が世界トップレベルか日本トップレベルか地区レベルかは、その選手の才能次第です。

今日はもう一点、河森博士のFBコメントから。

「『トレーニング業界で働いているなら、お金を儲けることを考えてはいけない』とおっしゃる御仁がいるらしい。トレーニングを通じてクライアントの人生にポジティブな影響を与えるという価値を提供できるのであれば、その対価として報酬を頂いて何が悪いのか?」
「トレーニング業界は、クライアントの人生にポジティブな影響を与える事のできる、やり甲斐のある素晴らしい業界だと、私は強く信じている。それを信じることもできず、対価をもらう能力も自信もない人は、そもそもこの業界に向いていないのではないか。」
「トレーニング業界ではお金を儲けちゃダメとか言って無報酬あるいは安価で仕事を受けている人は、この業界が発展する妨げになっていると認識して頂きたい。クライアントの立場から考えると、そんな人が提供するサービスは質が悪いし逆効果になる可能性も高いから、選ばないほうが良いですよ。」
「ちなみに、まだ価値を提供するだけの知識も技術も経験もない新人S&Cコーチが、経験のあるS&Cコーチに弟子入りして無報酬で働くのはアリ。『学ばせてもらう』という価値に対して、『タダ働き』という対価を支払っている図式がなりたつから。」
「でも多くの場合、タダ働きだけだと釣り合わないから、弟子が師匠に金を払って学ばせてもらうくらいで調度良いと思います。」

もし僕がキリスト教徒であったならば
AMEN!!!
と叫びつつ賛同する意見です。

まず、知識や技術がタダだと思ってもらっては困ります。その分野で優れた人材から何か得るためには、その人材のその知識・技術・経験を心から尊重し、それを態度に示す必要があります。
当然の話ですが、これを当然のようにできない人が多すぎる。特に、運動指導を生業としている人は、絶対にそうであってはいけません。
きっとそういった人材は、自分が持っている知識や技術を取得するまでにそこまでの労力をつぎ込んでいないから、他人の知識や技術にも尊敬を向けられないのでしょう。
博士や僕の努力は、あんたらの想像を絶するもんなんだってこと、もうそろそろ理解してもいいんじゃないの…
あと、大した知識や技術もないのであるならば、まず人を指導してはいけません。他人に指導できるまでの一定レベルを習得して初めて、指導者としての活動を開始するべきです。それまでは必ず自分のケツを拭いてくれるスーパーバイザーを置かなければなりません。
これも当然のことなのですが、えてして「一定レベル」に対する意識と知識レベルが低すぎるので、指導者として詐欺レベルの人材が多すぎます。

オリンピックなどの大きな大会で、国民の多くが満足する結果を残せる文化を育むために改善するべき課題が日本スポーツ業界には山積みです。

以上、河森博士のFBからいくつかでした。

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